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越前市はワーママ理想の街 子育て、教育を安心して地域に託せる ワーキングマザーの支援内容で際立っている越前市 福井県は共働き率が全国1位 共働き率は56.8%

コマ回しに夢中になる4、5歳児。コマひもを巻くのもお手の物で、誰のコマが一番長く回っているか、真剣に見守る。越前市の私立東保育園にて(すべての写真:キッチンミノル)

 少子高齢化にともなう"地方消滅"を回避するために、安倍政権が重要課題として掲げる地方創生。出生率と労働力の向上が不可欠で、その両方において女性がカギになる。つまり、子どもを産んで育てながら働くワーキングマザーの支援制度の整備が急務ということだ。そこで注目されるのが、共働き率が全国1位の福井県である。
 1995年から2011年にかけて4回行われた国勢調査の産業に関する集計結果で、連続して共働き率1位を維持する。年々減少傾向にあるとはいえ、2011年の共働き率は56.8%。昔から繊維産業が盛んで、女性も貴重な労働力だった背景から、いくつになっても手が動くうちは働きに出るものと考える。そのため、女性が活躍する場が多種多様で充実している。ワーキングマザーが多いことは、整った支援制度からも推測できる。中でも手厚い支援内容で際立っているのが、人口8万3000人の越前市だ。(構成・文:茅島奈緒深)

  • point1 待機児童は「もちろんゼロ」、子育ての悩みもまとめて相談できる
  • point2 全国有数の教育レベルの高さ、教員や地域が一体となって支える
  • point3 仕事の復帰を地域が後押し、イクメン多く、ストレスフリーでいられる
point1 待機児童は「もちろんゼロ」、子育ての悩みもまとめて相談できる

 市内にある保育園は、公立と私立を合わせて23園。0歳児保育が定着していて、すべての園で延長保育を行っている。幼稚園は公立と私立の計19園で、公立では3歳から、私立では2歳児から受け入れる園もある。都市部に多い待機児童は、当然のごとくゼロ。子どもが3人いる場合は、県の保育料軽減制度に加えて、市独自の軽減制度も適用され、家計を助ける仕組みだ。

東保育園のプレイルームで遊ぶ1、2歳児。カメラが気になって仕方なく、近寄ってくる子。まっすぐな視線がなんともかわいい

広い遊戯スペースで、保育士の先生とボール遊びをして走り回る3〜5歳児。真冬に素足でシャツ1枚でも、汗だく!東保育園にて

 福祉保健部・健康増進課によると、越前市に誕生する新生児の数は年間約650人。14回の妊婦健診助成を行い、帰省中などの理由で健診を県外で受けた場合でも、領収書を提出すれば返金する(年ごとに上限が設定され、2014年度の上限は1回5800円)。これは、ほかの県や市ではあまり例のない取り組みだと言われる。不妊治療助成は1回最高10万円、年3回までだ。
 産後は、生後4カ月までの間に、保健師と助産師による訪問を実施する。「80%は訪問でき、残りの20%はその後の健診や保健師による再訪問などによってフォローして、産後の状況を100%把握しています」と、同課の主任専門員である辻さゆりさん。2子目以降においても同様に行い、発達遅延や障害児など要支援と判断された場合は、保健師が再訪する。
 要支援の理由が、保健の分野外と判断する場合もある。多いのは経済的な困窮による家庭不和で、その場合は管轄部署である子ども福祉課の子ども・子育て総合相談室の相談員と一緒に対応する。この課をまたいだ連携体制が特徴で、よりスムーズな連携のために、2つの課は同じ建物の同じフロア内で、向かい合うように位置する。それが市役所庁舎ではなく、駅前の大型スーパーがある建物に入っているのがユニークだ。利用者が、より気軽に子どもの相談ができるように庁舎から独立させた。

子ども福祉課の子ども・子育て総合相談室の総合相談窓口。
明るくて開放的な雰囲気は、市役所の庁舎から独立しているからこそ

 子ども福祉課の子ども・子育て総合相談室はその名のとおり、子どもの発育や子育てに関する悩み全般を相談できる窓口だ。相談方法は電話、メール、対面のすべてに対応し、相談件数は平成25年で275件。「思うように育児ができない」「子どもが学校の集団行動についていけてない」といったほか、ネグレクトなどの重篤な内容まで多岐にわたる(多動症などの発達障害に関する相談は別の窓口「越前市児童発達支援センター なないろ」の管轄で、その相談件数は同年125件)。

「越前市児童発達支援センター なないろ」。保育士のほか理学療法士や言語聴覚士などが、その子に合った支援計画を立てて発達支援を行う

 同相談室の専門員である長屋恵子さんによると、多いのはシングルマザーからの相談で、「忙しさのあまりにイライラして、子どもをきつく叱ってしまったり、手をあげてしまったりするといったケースには一時預かりを薦めます」という。相談室と同じフロアにあるNPO法人子どもセンターピノキオをはじめ、市内には計4カ所、一時預かりをする施設がある。1日最長8時間、1カ月35時間までという時間制限はあるものの、自己申告のみで利用でき、1人1時間あたり350〜450円という安さが魅力だ。シングルマザーに限らず、冠婚葬祭などで、子どもを同伴しにくいときにも、もちろん利用可能。保育園には預けられない病児や病気回復期児は、1日2000円で市内の指定病院で預かってもらえる。
 相談件数は年々少しずつ増えている。数が増えることが必ずしも良いわけではないが、これまで内在していた問題を掘り起こし、問題の深刻化を予防する役割は大きい。同課・主事の八田丈嗣さんは「多くの相談者とは、自然と継続的な関わりになります」という。
 親子で参加できる体操教室や読み聞かせの会などの、イベントが多いことも特筆すべき点。「雪深い地域で、家にこもりがちなる冬にもいろいろ企画して、外出する機会にしてもらうように努めています」と、同相談室・室長の細川きよえさんは話す。5カ月児を対象に開かれる5カ月児セミナーでは、参加者には絵本を1冊プレゼントする。読書の街を宣言する越前市ならではのこととは言えるが、参加は義務ではない。にもかかわらず参加率が高いのは「定期健診と同じような感覚で、行くものとして定着している証だと思います」と、主幹の池田芳和さんは分析する。

すみずみ子育てサポート事業として一時保育も行う「NPO法人子どもセンター ピノキオ」。読み聞かせの会はいつも人気

ピノキオは年末年始以外、親子が自由に過ごせる場として開放されている。ここでも、子育てや食事に関する相談もできる

この日の読み聞かせの会で、最後に読まれた大型絵本。大きな絵に喜んで、立ち上がって跳ねたり、近寄ったりする子も

point2 全国有数の教育レベルの高さ、教員や地域が一体となって支える

 福井県は、義務教育のレベルが高いことでも知られ、マスコミなどで取り上げられることが多い。学力が全国平均を上回り、9つある市の中でトップなのが越前市だ。市内には小学校が17校、中学校が8校あり、平成26年度の全国学力・学習状況調査と体力・運動能力調査によると、体力面も県平均よりはるかに上だ。

武生東小学校にて、6年生の体育の授業風景。跳び箱に頭も体もつけずに、空中前回りで跳ぶ子。お見事!

他県の教育委員会などの視察も多く訪れる。越前市教育委員会事務局・教育振興課の清水誠さんによると、この1年半で教育委員会の視察だけでも、沖縄県や高知県などから10件以上あったという。学校単位の視察数は、数が多くて把握できないほどだ。
 高い学力を維持する理由として、まず、越前市の教員は小・中、そして高校の教員免許も持っているのが常識だということが挙げられる。市内に県立高校は4校あり、昨年まで教師の採用試験は小・中・高の一括で行われていたためだ。教員の知識と技能の高さが、学力向上につながることは想像に容易い。ここ数年では、新たに保育園・幼稚園とも連携した「幼保小中連携教育」に取り組んでいる。今後は高校とも連携をはかり、0歳から18歳までの「18年教育」を目指すという。

武生東小学校の部活動の連絡掲示板。吹奏楽部の先生から生徒へと思われる"ザ・青春"なメッセージ

 清水さんは、少人数制であることも学力維持の一因だという。「越前市は学校の統廃合がされず、以前の旧村単位で学校が残っているため、少人数制による目の行き届いた教育が実現できています。学校の統廃合は地域の統廃合を招くケースが多いので、学校を残すことで地域の存続につながっているとも考えます。学級数は多いところで1学年4つ、少ないところは1つ。多くの学年で、国が定める1学級の人数上限より少ない編成になっています」(清水さん)。
 取材した武生東小学校は、1〜3年と6年が2学級、4年と5年が1学級、特別支援学級が1学級で、全校児童225人。パソコン教室で行われていた3年生の授業には、児童17人に対して担任の先生のほかパソコン専門の先生もつく。市内で一番多いと言われる武生第一中学校は、1年と3年が7学級、2年が8学級で、全校生徒660人。平均すると1学級30人になり、国が定める上限40人より10人も少ない編成だ。

小学生用の文章作成ソフトで、オリジナルのカルタを作るのがこの日のテーマ。
50音別に担当が決まっている

武生東小学校にて、総合学習の時間にパソコン室で、パソコンの操作を習う3年生たち

 いずれの児童も生徒も、すれ違うと「こんにちは!」と元気よく挨拶してくれたのが印象に残っている。廊下に貼りだされた掲示物からは様々な行事の様子が伝わり、楽しい学校生活が垣間見えた。給食が自校直営方式であるのは、都市部の学校では珍しくなってきた光景の一つ。市内の小学校全校と中学校1校で直営方式を導入し、食育と地産地消の推進に役立てている。
 保育園・幼稚園数の多さと同様に、放課後に通う児童クラブが充実しているのは共働き率全国1位の成せる技だろう。市内26カ所の児童館(児童センター)で開設されている。学校内での開設でないことは、子どもを守る目と手が多いこととイコール。まさに、地域で子育てをする環境だ。その魅力について、東京から引っ越してきたワーキングマザーの佐藤登美子さん(39歳)は、「おかげで子育てで孤立することがなく、神経質にならずに済みます」と微笑む。

武生東小学校の厨房。直営方式の給食はすべての小学校で実施している。直営方式の給食は市内の幼稚園全園と多くの保育園でも実施している

武生第一中学校にて、ランチルームで給食を食べる生徒たち。ランチルームは隔週で、全校生徒の半数ずつで利用する

IT給食という、2種類のメニューから選んで事前予約するシステムを導入。変更したい場合は、このパソコンから操作可能

この日の2種類のメニュー。主食はご飯とパン、主菜は肉と魚、汁物も和風と洋風に別れている

point3 仕事の復帰を地域が後押し、イクメン多く、ストレスフリーでいられる

 越前市教育委員会文化課の学芸員主査を務める登美子さん。夫の潤一さん(43歳)は時宗という宗派の僧侶で、7年半前に市内の成願寺の住職に就任した。彼女が引っ越したのはその1年後で、結婚と出産を経て、長男の栄一くん(4歳)と3人で暮らす。産前は専業主婦をしていたが、働くように薦めたのは檀家さんだった。
 産後も、子どもを保育園に預けられる半年が経つと、仕事に復帰することを薦められた。世間一般の檀家さんと、大きく異なる感覚だろう。雑務が多い寺の嫁も、働きに出るのが当然と考えるのだ。実際、登美子さんは8カ月で仕事に復帰。寺の行事に参加できなくても、檀家さんは働きに出ているから、で納得する。同じように寺に嫁いで雑務をこなす義母に話したら、信じられない! と目を丸くされた。

6年半前に、東京から越前市に移住してきた佐藤さんファミリー。
夫・潤一さんが住職を務める成願寺の前にて

 登美子さん自身が引っ越してきて驚いたのは、地域活動の多さだった。町内の草刈りや川の掃除、婦人会の集まりにお宮の祭りの準備、などなど。東京の地元で地域活動に参加したことはなく、週末は個々人で過ごすものだったため、最初は楽しみを奪われるようにも感じた。しかし、郷に入れば郷に従え。次第に、みんなで地域活動をして過ごす時間が楽しみだと知る。その結果、地域の人たちとの絆が深くなった。自ずと、安心して子どもを任せられるようになり、地域活動に参加する意義の大きさを痛感した。
 いわゆる「イクメン」こと、育児に積極的に参加する夫も多い。潤一さんのように、夫が子どもの保育園の送りや迎えをするのは珍しくない。都会では、あそこのお宅はご主人が送りをしている、と噂される存在だろう。子どもが病気になったとき、夫が病院に連れて行くのもよくある光景。ワーキングマザーにとって、越前市は理想的な町の一つであることは間違いなさそうだ。

長男・栄一くんの保育園の送り迎えは、潤一さんの担当。イクメン率の高い越前市では、お父さんが送り迎えするのはよく見る光景

 「子どもを塾に通わせなくても、公立校に通わせておくだけで、そこそこの学力を身につけられると安心しています。東京ではよく見聞きした『お受験戦争』も聞いたことがありません。子どもの進路で親がいちいち迷わなくて済むのも、ストレスフリーでいられるポイントだと思います」(登美子さん)
 日常生活において、特に不便を感じることもないそうだ。インターネット環境に問題を感じることはなく、家の無線LANのスピードも快調で、東京と同じ感覚で利用できている。違いを感じるといったら、食べ物が美味しいことだという登美子さん。一押しは、福井県が発祥と言われるこしひかり米。炊く水もまたいい。飲み水としてもなんら抵抗はなく、ペットボトルの水を買わなくなった。その水のおかげで、肌と髪の調子が良くなったと感じている。東京の実家に帰省すると肌が荒れ、髪の櫛通りが悪くなるから、早く越前に戻りたくなるほど。この美容的なメリットは、女性全般にうれしいことに違いない。

デイサービスセンター・オアシスと併設された東保育園の厨房。高齢者と園児向けに給食の配膳台の高さ変えるなど、きめ細やかな工夫をこらしている

越前市にあって都会にないもの・・・

昔から女性も働きに出るのが当たり前とされてきた越前市。女性の社会進出が進んだ風土が支援制度を整え、実行性の高い内容に育てたのだろう。それは住みやすさとなって、市民に地域に対する信頼感をもたらした。越前市にあって都会にないものは、その信頼感かもしれない。仕事をしづらい、子どもを育てづらい、結果、生きづらい。そんな都会でよく耳にする声は、直接聞こえてこなかった。

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