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和太鼓で28カ国を巡った後、越前打刃物の世界へ

プロの和太鼓奏者として世界中で演奏した後、Uターン。
海外ツアーで習得した英語を活かし、700年の歴史を持つ伝統工芸「越前打刃物」の伝え手として活躍している。

東 まどかさん(34歳)● タケフナイフビレッジ

 共働き率全国ナンバーワン(※)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。

 今回は、タケフナイフビレッジに勤務する東まどかさん(34歳)に、越前市へのUターンを決めた理由や仕事のやりがいなどについて聞いた。

家族とともに過ごすことを選び、地元にUターン

 世界を駆け巡る和太鼓グループのメンバーから、伝統工芸「越前打刃物」の発信者へ──。東まどかさんは、そんな異色の経歴の持ち主だ。

 高校卒業までは越前市で過ごし、東京の大学に進学。就職活動で都内の一般企業から内定を得たが、思い悩んだ末、辞退した。実は、4歳から地元の和太鼓教室に通い、大学でも和太鼓部に所属。慣れ親しんだ和太鼓のプロ奏者にチャレンジしたいという想いからだった。

 「大学4年のとき、YouTubeで見た和太鼓集団の演奏に圧倒的な力を感じました。それ以来、“この人たちと一緒に演奏したい!”と思うようになって」

 そのグループが、奈良県明日香村を拠点とする人気の和太鼓集団「倭-YAMATO」だった。「やってダメだったら、あきらめがつく」と心を決めて、入団。8年間所属し、最初の4年間は海外公演に参加して世界28カ国を旅した。後半はオランダに住み、「倭」が主宰する和太鼓教室で講師を務めた。

 充実した海外生活を送っていたが、2017年に「倭」を脱退し、地元に帰ることを決意した。

 「きっかけは父の病気でした。『倭』から離れたら自分には何もなくなってしまいそうな不安もありましたが、それよりも闘病生活を支えている母をサポートし、家族と一緒に過ごしたいという気持ちが上回りました」

 2018年の新年に帰郷。ほどなくして、越前市の観光協会で働いていた友人から、「タケフナイフビレッジ」で外国人客に英語で対応できる人を探しているという情報を得た。「倭」の海外ツアーでは語学力が必要となる場面もあり、実践で英語を習得した東さん。「これまで鍛えてきた英語を活かせる仕事がしたい」という希望を持っていた。

 両者のニーズが合致し、4月から「タケフナイフビレッジ」でアルバイトを開始。5月に父を見送り、6月に正社員として採用された。

自分の希望を率直に伝え、やりたいことを実現

 「タケフナイフビレッジ」は、越前市が誇る伝統工芸「越前打刃物」を手がける12社が集まった協同組合の拠点で、共同工房や直売所を備えている。

 この協同組合に雇用されている東さんは、直売所での接客や事務、ホームページの作成・更新など幅広い仕事を担っている。

 「やりたいことに挑戦させてくれる職場なので、未経験ながらネットショップを立ち上げたり、海外への商品送付をできるようにしたりといろいろ形にできることが楽しいですね。また、接客にもやりがいを感じています」

 近年は「タケフナイフビレッジ」にも外国人客が増え、ピーク時には年間で約600人が訪れた。もちろん、得意の語学を活かして東さんが対応している。

 「つくり手とお客様のつなぎ役として、越前打刃物の素晴らしさや、職人の技と想いを自分の言葉でしっかり伝えたいと思っています。購入してくださったお客様の喜びの声を聞いたときなどは、本当に嬉しいですね」

 外国人客の中には専門的な質問をするナイフマニアも多く、「答えられないとすごく悔しいので、まだまだ勉強しなければ」と意欲的だ。

 仕事だけでなく、東さんはプライベートでもアクティブ。ジムに通ったり、月に数回フットサルをしたり、知人の依頼で地元の和太鼓チームを教えたり。「倭」にいた頃は朝10kmのランニングから始まっていたので、今も「力が有り余ってる」と笑う。さらに、8時半から5時半までの就業時間以降に副業も。

 「仕事が定時に終わるので、その後暇だなと思って。もともと副業は禁止でしたが、お願いしたところ許可して頂けたので、週に1~2回、友人のラーメン店を手伝っています。何でも相談しやすい職場環境はとてもありがたいですね。私の他に3人の女性が組合で働いていますが、すでにお子さんから手が離れていたりで、産休や育休を取得した人はまだいません。ただ、私が今後必要になって相談したら、柔軟に対応してもらえるかなと期待しています(笑)」

お客様に「この包丁を使ったら、他のものは使えない」といわれたことが一番嬉しかったという東さん。「越前打刃物」のこだわりを伝えるため、日頃から職人の皆さんとも親しく交流している

これまで身につけたことを地元に還元

 「倭」での海外生活を経て、現在は越前市での生活を全力で楽しんでいる東さん。一旦外に出たからこそ、昔は何もない田舎だと思っていた地元の魅力が見えてきたという。

 「4年間住んでいたオランダのアムステルダムも、街には水路が流れ、カフェで人々がゆったりお茶をするといった素敵な雰囲気でしたが、越前市にはまた別のよさがあります。それを実感したのは、海外の友人がこちらに遊びにくると聞いたとき、“案内したい場所がたくさんある!”と思えたことですね」

 実際に、オランダの友人たちが遊びにきたときは、「タケフナイフビレッジ」をはじめ、「越前和紙の里」や「越前箪笥」の工房が立ち並ぶタンス通り、古い建物や日本庭園がある「万葉の里味真野苑」などを案内し、越前のものづくりを通して日本文化に触れてもらった。

 「なかでも、包丁づくり体験が大好評でした。オランダには山がないので、越前の街を取り囲む山並みの美しさにも感動していました」

 東さんも「自然の景色に毎日癒される」という越前市は、「住む」ということに適した地域でもあるという。

 「特に、子育て世代は住みやすいと思います。私の周囲にも共働きで子育てをしている友人がたくさんいますし、市の支援制度や子育て支援センターなどの施設も充実していると聞きました。また、人が温かいということも、暮らしやすさにつながっていると思います」

 すっかり越前市に根を下ろした東さん。今、目指しているのは、「自分が海外で経験したことや身につけたことを地元に還元していく」こと。

 「和太鼓を教えるということもそうですが、英語を活かして越前打刃物などの伝統文化を世界に発信していきたいですね」

鋼を熱し、ハンマーで打ち、仕上げ研ぎをして完成させるまでの工程を職人が丁寧に手作業で行う。一本一本に、職人の技と想いが込められている

福井県越前市で働く

越前市には、認定こども園と保育園が私立・公立合わせて計24園ある。認定こども園とは、幼稚園と保育園の両方の機能をあわせ持ち、地域の子育て支援も行う施設のこと。保育園では通常の保育のほかに、延長保育、休日保育、一時預かりなどがあり、柔軟な対応で働くママやパパを応援する。

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取材・文:後藤かおる  撮影:山岸 政仁
* この記事の年齢、役職などは取材時のものです
※ 福井県の共働き率58.6%、全国平均48.8%(総務省「平成27年度国勢調査」より)