LINE登録はこちら

お知らせ
News

技術者キャリアをモノづくりの街、越前市で120%発揮

“最先端技術”を誇る福井県内でも有数のモノづくり企業がひしめく越前市。
高度な専門知識と経験を持つエンジニアがキャリアを活かしながらもっと輝ける“理想の職場”を見つけた

谷口綾さん(42歳)●アイシン・エィ・ダブリュ工業・環境部門 施設グループ

 共働き率全国ナンバーワン(※1)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中でも中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。

 今回は、石川県出身で、大阪や石川で数多くの難関資格を取得しながらキャリアを積んだ谷口綾さん(42歳)に、越前市へのJターンを決めた経緯やモノづくりとの関わり方について聞いた。

「好き」を仕事にするために動く!

 「エンジニアになろうと思ったきっかけは、高校生のときに見たテレビ番組。火花を散らしながら溶接するシーンを見て『モノづくりって面白そう』と、工業技術に興味を持ったんです」。そんなちょっとした興味から、谷口綾さんのエンジニア人生がスタートした。

 高校の普通科を卒業後、谷口さんは大阪にある工業系短大の生産技術科に進学。20歳で卒業し、そのまま大阪の会社に就職した。当時、機械系の仕事に就く人は今よりももっと男性が多く、社員数150人のうち女性のほとんどは事務系で、女性エンジニアは谷口さんたった1人だった。

 就職活動では「重いものは持てるか」「現場経験のある男性に指示が出せるか」とずいぶん聞かれたが、結局配属されたのは、短大で学んだAutoCAD(オートキャド)の技術を生かして、図面を作成する仕事。

 「AutoCADの仕事をマスターしながらも、上司にはずっと『現場に出してください』と訴え続けました。デスクと現場とではどうしても温度差があって、ていねいに図面を引いても、現場からダメだという声が上がってくるからです。一人前になるには、現場を知らなければという思いが募っていました」

 口先だけではダメだ。そう考えた谷口さんは、行動することで道を拓こうと「電気工事士」の資格を取得。しかし3年経っても異動は叶わず、谷口さんは退職を決意した。次に就職したのは設備管理の石川県支社。ここでは念願の現場に配属されたが、ルーティン作業が続き、スキルアップに限界を感じたことから、この会社も2年ほどで退社した。

 「現場はなんといっても男性が中心の世界。そこで男性と同じステージに立つには、自分で自分の能力を証明しなければと、ずっと考えてきました。それで仕事をしながら勉強して、『第三種電気主任技術者』の資格を取得しました。これからは機械系よりも電気系の方がニーズがあるし、体力的なハンディも少ないからです」

※AutoCAD……工業製品の製図や建築物の設計などをコンピューターを用いて行うこと。そのためのソフトウェアや情報システムを指す場合もある。

モノづくりの街へのJターン

 3つ目の会社で、谷口さんはいよいよ“天職”に巡り合う。それは石川県にある半導体の工場で、設備管理・工事管理をする仕事だった。

 「工場の規模が大きく、システムも設備も非常に複雑。その分、仕事は変化に富んでいてすごく面白かったですね。この仕事を始めて『私のしたかったことはこれなんだ!』と実感できました。職人さんや業者さんと突っ込んだ話ができるように、『1級電気工事施工管理』や『1級管工事施工管理』などの資格も取得しました」

 徐々に大きなプロジェクトを任されるようになり、グループ内職員への指導も担当。リーダーとして活躍できる機会も増えてきた2013年、突然工場の売却が発表された。

 「15年間、幸せに仕事に邁進してきましたから、あまりのことに呆然としました。売却先に転籍する道もあったけれど、今と同じ仕事を続けられる保証はない。それなら少しでも若いうちに次の道を探そうと退職し、就職活動を始めたんです」

 就職先を探すにあたって、最も重視したのは仕事の内容。それまで女性ということで苦労してきた経験もある上、前職ではかなり満足のいく仕事ができていた。それと同じような環境が、果たしてあるのか……。そんな不安を抱えながら就職活動をすること半年、エージェントに紹介されたのが福井県越前市にあるアイシン・エィ・ダブリュ工業だった。

 「働き方や仕事の内容は、前職をそのままスライドしたような感じ。違うのは、会社の製品が半導体から、トルクコンバータに変わったことくらい(笑)。まさか、こんなに自分に向いている仕事が見つかるなんて思いもしませんでした」

 入社早々、谷口さんにとってラッキーな出来事があった。ちょうど建設中だった新工場の仕事に関われたことだ。

 「もともと建築工事には興味があったのですが、実地で勉強できるチャンスはめったにないので、すごく嬉しかったです! 建設直後には工事管理も任せていただいて、無事故無災害で納期内に完了させることができたことも貴重な経験です」

第二種電気主任技術者、1級電気工事施工管理、第一電気工事士、1級管工事施工管理、エネルギー管理士、乙種高圧ガス取り扱い責任者など、なりたい自分に近づくため、谷口さんが多くの資格を取得。努力を惜しまない働き女子だ。

モノづくりを支える“プロの裏方”

 就職と同時に越前市に住み始めて1年半。この街には学生時代から新卒までを過ごした大阪、そして出身地であり、キャリアの大半を築いた石川とはまた違った魅力があると谷口さんは話す。

 「越前市の人はとても穏やか。この街に住み始めてから、車のクラクションも人の怒鳴り声も聞いたことがないですね。会社でもみんなが気さくに話しかけてくれますし、すれ違うたびに挨拶や会釈をしてくれる。入社してすぐ、開放的でいい会社に勤められてよかったとホッとしました」

 谷口さんは前職時代、『第二種電気主任技術者(※)』の資格を取得した。社員数3,498名(2016年3月末)のアイシン・エィ・ダブリュ工業でも、この資格を保有する社員は谷口さんを含めて2名。福井県内でも100人いるかどうかという貴重な資格保有者であり、現場経験も豊富な谷口さんには大きな期待がかかっている。

 谷口さん自身も、この会社で挑戦したいことがある。

 「工場や設備は、『ライフサイクルコスト』といって、維持するために大きなコストがかかります。でも、設計段階からそのコストを削減できるようなプランを作っておけば、将来的に会社の負担がぐっと減ります。そんなプランニングの仕事をしてみたいですね。チャンスが訪れたときのために、もっと勉強して施工管理の資格を取るつもりです。  モノづくりの会社に所属していても、私自身が何かを作るわけではありません。でもエンジニアとして、こんな風にモノづくりと関わるのもありだなって思うんですよ」

自動車のオートマチックトランスミッションの心臓部であるトルクコンバータやトランスミッション部品の専門メーカーであるアイシン・エィ・ダブリュ工業。世界の主要自動車メーカーに供給されている。

※第二種電気主任技術者……電圧17万ボルト未満の事業用電気工作物の工事、維持及び運用の保安の監督ができる。平成27年度の受験申込者数は9161名。そのうち合格者は297名で、合格率はたったの3.2%(一般財団法人 電気技術者試験センター調べ)。

福井県越前市で働く

2015年4月にスタートした「越前市UIJターン就職奨励金」。この制度では、満40歳未満で、福井県外に1年以上住んでいた人が越前市内の企業に就職または市内で創業する、5年以上定住する意思があるなど所定の条件を満たした場合、1人10万円(1世帯20万円が上限)が交付される。
※新卒者の方、転勤者の方、公務員の職に就かれる方などは対象外

■UIJターン就職奨励金
http://www.city.echizen.lg.jp/office/060/010/uij.html
■問い合わせ先
越前市役所 産業政策課 TEL 0778-22-3047

取材・文:市原淳子  撮影:佐々木実佳(ブロウアップスタジオ)
* この記事の年齢、役職などは取材時のものです
※1 福井県の共働き率56.8%、全国平均45.4%(総務省「平成22年度国勢調査」より)